Home for Bicultural Children | 川井大樹建築設計事務所
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Home for Bicultural Children

About This Project

 

愛知県名古屋市に建つ、築41年経つマンションのリノベーション計画。

 

■バイカルチュラル チルドレンのためのHome

 

父はアフリカ人(ジンバブエ)、母は日本人というインターマリッジの家庭で、子供は生まれも育ちも日本である。こうした国際結婚は近年増加し身近なものになったと言えるが、異文化間の結婚によるバイカルチュラル(Bicultural)な家庭において「子供の成長に伴うアイデンティティの形成」にはさまざまな課題が存在する。

 

アイデンティティ(自己同一性)とはエリク・エリクソンによれば、「自分とは何者かを問い、自分の由来、現在、未来はどのようになるのか答えを見出そうとする心の動き」であり、「その結果として心に抱くわたし意識の総体である」としている。つまりアイデンティティとは、個人を取り巻く様々な環境や文化などを自己の枠組みとして内面化し、その文化に対して帰属感を獲得する心理的動き(同一化)であり、自己を取り巻く様々な変化の中で葛藤し揺れ動いていくものであると言える。

 

そのように見ていくと、バイカルチュラル チルドレンは初めから2つの文化に常に身を置くこととなる一方、そのアイデンティティの形成に大きく影響を及ぼすのは、ホスト社会(日本)の文化体系・風土となるため、その狭間で「文化的葛藤」「心理的不安」「不適応」などの葛藤が起きてしまう。

 

しかし近年における文化的多元主義の台頭によって、彼らが持つ文化的二元性は「葛藤」や「不適応」の側面ではなく、両文化を「統合」し、状況に応じて使い分けることができる資質(言語認知の柔軟性や異文化適応力、創造力など)としてポジティブに捉えられるようになってきている。

 

本計画を設計するに当たって最初に強く感じたことは、最も長い時間を過ごすであろう「バイカルチュラル チルドレンにとってのHome」とは、ホスト社会の文化のみに強く帰属させるものではなく、両文化の多様性を持った空間であり、そこに身を置き過ごすことが、多元的アイデンティティ形成の拠り所になって欲しいということだった。

それは家族(ひいては社会・文化)との関係性を築く場所であり、光や、風のようにただ日常を取り巻く環境の小さな差異を発見できる場所であり、帰る場所である。

そうしていつかジンバブエを訪れた際に、違和感や疎外感ではなく、懐かしさを感じてもらえることを切に願うものである。

 

 

■共に在る空間

 

計画する1室は、北東南3面が外部に開かれた角部屋に位置しており、良好な日射と通風が確保されていた。また中層階に位置していることや、東側が畑となっていることなど将来的にも良好な周辺環境は保たれるであろうことが予想された。

一方内部は大きな梁が特徴的で、梁下で有効高1.8m程度と近年の住宅ではあまり見ることがない低さである反面、その他の天井高は2.5m程度確保されていた。くぐるような感覚を覚えるほど圧迫感のある梁部分と開放的な天井高が同居する、メリハリのある空間であった。

 

また、ご要望により「子供を見守れるように閉じ切った部屋を極力作らず、家族が集まるLDKを可能な限り広くすること」、「日当たりと風通りが良い空間」、「サンルーム」「ローコスト設計でありながらも諸機能の向上(フルスケルトン、外壁断熱改修、内窓設置、設備機器改修等含む)」などが求められた。

 

そこでまず空間を構成する要素を

1:天井から降りてくる約70cmの垂れ壁(既存大梁+新規垂れ壁)

2:床から立ち上がる約1.8mの自立壁

の2種類に整理した。

1.8mという高さは、「開口部」として見るならば人が通る最小限の高さであり、和室の欄間のように空間をやわらかく分節する。逆に「壁」として見るならば、人の視線を遮る高さである。既存の大梁のもつ特性を活かしながら新たに付随する垂れ壁・自立壁を計画することで、適度に分節されながらも全体としてゆるやかな繋がりを持った一体的な空間を目指した。

 

自立壁と垂れ壁は直行方向に交差するように設けているため、上下に開口を生んでいる。「床レベル」の開口では直接的な空間の繋がりを、「垂れ壁レベル」の開口では光、風、音など環境的な要素と、視線の抜けや気配による心理的・間接的な繋がりをつくっている。その開口部に適宜空間を開閉できよう建具とカーテンを設けた。そうすることで連続する空間や繋がりの強度を住まい手が調整しながらも、多様な居処が共存する空間としている。

 

また、壁には厚みを設け収納スペースとすることで、大容量の収納を確保しており、隣戸境界である西側に収納スペースと水回りのコアを集めて配置することで、騒音対策を兼ねている。

 

 

 

■アフリカの風土

 

・アフリカの家族観と集落

 

ジンバブエにおける家族は日本の家族と比べても、とてもおおらかである。自分の子供を兄弟親戚に預け、育てるなどよくある話で、血縁や同じ共同体における繋がりが強いようである。それはアフリカでの家族観が拡大家族となっており、親戚・血縁関係にある複数の家族で集まり1つの共同体を形成しているためである。父方の兄弟は皆Fathers で、母方の姉妹は皆Mothersと呼ぶ風習などからも感じられる。これには結婚など社会的制度も関係するが、伝統的な集落の形成の仕方も関係しているように思われた。

 

藤井明の調査によると、アフリカの伝統的な住まいでは基本的に成人の男女は1人が1つの住棟(寝室)を持ち、集落(コンパウンド)を形成する。サバンナの集落は中心という概念に乏しく、広場のようなスペースはあまり見られず、住棟の間は炉(キッチン)や水浴び場や家畜小屋などとして活用されている。土壁で造られた円形の壁に草葺き屋根が乗り、ぽっかりと空いた入り口を持った小さな住棟が寄り集まって集落を形成している。

つまりここでは個人が寄り集まって1つの集落(家族)を形成しており、日本のように個人―家族―社会のスケールではなく、個人―社会(家族)といった関係性が直接的に成り立っているように思われた。

 

和辻哲郎が「風土」において「家を作る仕方の固定は、風土における人間の自己了解の表現に他ならない」としているが、まさにアフリカの風土における共有関係がアフリカ人のアイデンティティを形作っているのではないだろうか。

 

今回の計画では共同体としての家族空間に目を向け、個人の居場所を完全に閉じられた部屋として設えるのではなく、むしろ住戸全体が緩やかにつながった環境の中に「居処」を見つけ、そっと身を置くことのできる空間とした。それは日本が元々持っていた和室の空間や、縁側における交流などとも通ずるものがあるように感じられるのである。

 

谷の遺跡(ジンバブエ)(左) ジンバブエの赤土の風景(右)

・土壁

 

アフリカなど赤道に近い地域では赤土(ラテライト)がよく見られる。

赤土は雨季に表面に堆積した枯葉や腐食分などの有機質が流失し、乾季に水分が蒸発して鉄分・アルミニウムが表面に集積、錆びることで作られる。

赤土の風景はジンバブエにおいても見られるため、壁は日本でも馴染みのある漆喰仕上げとし、色は赤土を模した。

施工は施主の友人でもあり、同じくジンバブエ人の夫をもつKOTE ARTISTのRIKAKOさんに依頼。大地のように力強くうねりながらも空間を優しく包み込む、すばらしい作品を仕上げて頂いた。

Place

愛知県名古屋市

Total floor area

約85㎡

Construction

Photography

Daiki Kawai

Date
Category
Renovation