大きな壁のある住宅
和歌山市に建つ築32年のマンションの一室をリノベーションした、母と子供2人(計3人家族)のための住宅です。
街との繋がり
計画マンションはJR和歌山駅や和歌山城からほど近く、かつては武家城下町として栄え、近代では産業の街(木場)へと変化しながら和歌山市の歴史を支えてきた地域に位置しています。
計画する一室は角部屋のため北東南の三面が街に対して開かれており、歴史ある和歌山市の街並みに囲まれていました。また計画する一室は高層に位置するため、遠くは和歌山湾や紀ノ川・和歌川など豊かな水系や、紀伊半島の山々など雄大な自然に囲まれており、自然と歴史を感じる解放的な一室で、潜在的な地域との繋がりを強く持っていました。
家族のカタチ
公営住宅標準設計51C型に始まり、マンションにおいて規格化された「nLDK型」は、1部屋に1開口が標準的で、周辺環境との繋がりはぶつ切りにされ、希薄になってしまう傾向があります。しかし、計画地を見た際に「豊かな眺望と潜在的な地域への繋がりが最大限に感じられる住宅であって欲しい」と強く感じました。
また、戦後日本の生活の質を向上させた「食寝分離」および「就寝分離」は、nLDKの「型」が強固になり過ぎたことによって機能的分離が過剰となり、結果、家族の隔たりを強くしてしまったのではないでしょうか。
よって今回の計画は、間取りの「形」を探るのではなく、家族の「カタチ」に自由度あたえた計画とすることで、様々な生活のシーンが重なり合いながら、家族が自然と共に過ごすことができる「おおらかな広場」のような空間をもった住宅としました。
繋がる広場
「個室は仕切らず最小限とし、LDKを広くしたい」とのご要望と、「ローコストな計画」であることが求められたことから、室を東西で二分割するような境界壁を1枚だけ建てる計画としました。
境界壁を境にして、閉じた面となる隣戸側は個室となる「プライベートスペース」を、開放的な三面開口側は家族のための広場となる「コモンスペース」に分かれます。プライベートスペースは就寝と収納など「静」の機能に限定することで最小限化し、様々な生活を行う「動」の機能をコモンスペースに重ね合わせることで広場の面積を最大限に確保しています。
家族と共に成長する住宅
プライベートスペースは家族の成長に合わせ、将来的な変更が可能な計画としています。
Phase 1:乳児期・幼児期
家族3人が共に寝る時期
プライベートスペースは大きな一室で、コモンスペースと合わせて走り回ることが出来る空間
Phase 2:児童期
一人寝ができるようになり間仕切りを増設
個室となるが、間仕切りの開口を通して家族の気配が感じられる空間
開口は光・風を運び、猫の通り道にもなる
Phase 3:思春期・青年期
思春期を迎え、個室の出入り口と間仕切りの開口に建具を増設
Phase 4:独立後
子供達が巣立ち、個室の間仕切りを撤去
趣味などを自由に楽しむことができる空間
猫のいる暮らし
衛生および臭気の面から、玄関およびダイニングキッチンは猫が立ち入れないエリアとして独立させ、猫のトイレや食事は洗面所に集約しています。ダイニングキッチン以外を自由に歩き回れる立体的な猫動線は、室全体の空気の循環と、光を届ける役割も担う一方、子供達のコミュニケーションの場にもなっています。